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「復讐よりも恐ろしい嫉妬」アレクサンドル・デュマ著『モンテ・クリスト伯』を読む【緒形圭子】

緒形圭子「視点が変わる読書」第23回 『モンテ・クリスト伯』アレクサンドル・デュマ


何が起きるか予測がつかない。これまでのやり方が通用しない。そんな時代だからこそ、硬直してしまいがちなアタマを柔らかくしてみよう。あなたの人生が変わるきっかけになるかもしれない・・・そんな本がここにあります。「視点が変わる読書」連載第23回。「復讐よりも恐ろしい嫉妬」 アレクサンドル・デュマ著『モンテ・クリスト伯』を紹介します。


アレクサンドル・デュマ・ペール(1802ー1870)。19世紀フランスの小説家、劇作家

 

  

第23回  復讐よりも恐ろしい嫉妬

『モンテ・クリスト伯』アレクサンドル・デュマ(岩波文庫)

   

◾️嫉妬心が殺害への導火線だった!?

  最近いちばん驚いた事件は、名古屋の主婦殺し容疑者逮捕だ。

 事件は199911月に起きた。名古屋市のマンションに住む主婦(当時32)が何者かに刺し殺された。現場に一緒にいた2歳の息子は怪我もなく無事だった。

 犯人が捕まらないまま26年が経とうとしていた今年(2025)1031日、容疑者の女性が逮捕された。それは殺された主婦の夫の高校時代の同級生だった。二人は同じ軟式テニス部に所属していた。

 主婦の夫と容疑者の間に恋愛関係はなかったが、容疑者は夫に対し一方的に恋愛感情を抱いていて、高校生の時に二度、バレンタインデーにチョコレートを贈っていた。高校卒業後も彼の通う大学のテニスの応援にかけつけたりもしたが、彼女の恋が実ることはなかった。

 事件があった1999年の6月、主婦の夫と容疑者は久しぶりに高校のテニス部の同窓会で再会した。二人ともそれぞれ結婚していて、近況を報告し合った。

 その5か月後に容疑者はかつて恋愛感情を抱いていた男の妻を刺し殺した。

 事件には10万人もの捜査員が導入され、事情聴取した人は5千人以上にのぼるというが、26年もの間、犯人は捕まらなかった。

 容疑者に、普通に考えられる動機がなかったからだ。

 一体どうして高校時代に淡い恋心を抱いていただけの相手の妻を、わざわざマンションまで訪ねていって刺し殺すだろう。

 当の夫さえ容疑者の名前を聞いた時に、「信じられない」とつぶやいたという。

 容疑者は、主婦を殺し夫に子育ての苦労を分からせたかった、と供述しているが、私は、動機は嫉妬だと思っている。同窓会で夫と再会した容疑者は、夫が妻と子どもとともに幸せな生活を送っていることを知った。マンションを訪ね、主婦と対面した容疑者は自分が得るはずだったものを得た女の姿をそこに見た。人は自分にはどうしてもかなわないと思った相手に対し、嫉妬心を燃え上がらせるのだ。

 

 1110日に封切りされたばかりの映画『モンテ・クリスト伯』を東京のTOHOシネマズシャンテで見た。チケット売り場の前にも、予約券交換機の前にも長蛇の列が出来ていて、映画館は9割方の入りだった。

 午前1020分からの回ということもあるのだろう。年配者が多かった。一人で来ている人もいれば、夫婦、友人同士のグルーブなどで来ている人たちもいた。恐らく、みなさん、高校生か大学生の時に、フランスの名作文学に触れられた方々なのではないだろうか。かく言う私もその一人だ。

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これほどの『知の怪物』に伴走できたことは編集者人生の誉れである。」

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緒形圭子

おがた けいこ

文筆家

1964年千葉県生まれ。慶應大学卒。出版社勤務を経て、文筆業に。

『新潮』に小説「家の誇り」、「銀葉カエデの丘」を発表。

紺野美沙子の朗読座で「さがりばな」、「鶴の恩返し」の脚本を手掛ける。

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